cry no color

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ときどき遠くに行かなくちゃと思う。ときどき遠くに行かなくちゃ、誰も私を知らない場所に。知らない町の知らない空気を吸う。地形のことに思いをはせる。コーヒーの匂いはどこでも同じ。たとえば自転車に乗って、べつに美しいものを探すわけでもないんだけど。ここではないどこかは、私の居場所ではなくて、だからときどきそこに立っていたい。

 

繰り返しているというのはほんの気のせいだった。つまり積み重なっているというのもほんの気のせいだ。足元から溶けている。嘘は得意で、ほんとうも得意。楽しいことがしたいな。たいしたことではない。同じ本を読んで、目を合わせて話をして、私の好きな音楽について、あの人は知る。新しいものを手に入れたように私は気分がよくなる。書き残しておくことの不自由さについても考える。薬のように甘い言葉を、お酒のように。途切れなければいい。誰も知らない私が増える。

信じたいものを信じればいいと思う。誰かは言う。信じたいものしか信じられないの?信じられないものを信じたい。諦めなくちゃいけないのはかなしい。私は知っている。知っていることとすべてが違うのはさみしい。疲れている。

すべての偶然が私を変えていく。なんでもなかったはずの瞬間を思い起こして、大事にしまいたくなってしまう。ベランダからの見慣れた夜は、懐かしい春の匂い。受話器の向こうで、すこし酔っている人は、それが人生だと言う。大人になったので、首肯できない説教くさい話にも、笑いながら頷いてみる。私はいくらでも聞く。それがきっと嬉しいだろうな。たとえば私は優しいのかもしれない。関係ない人の関係ない人生の話なら、いくらでも聞いている。だって余裕だ。私は選ばない。選ばない人に選ばれもしないから、余裕だ。

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